1971年、
三共(現:
第一三共)の発酵研究所に所属(当時)していた遠藤章のグループは、HMG-CoA還元酵素を阻害する物質の研究を開始した。HMG-CoA還元酵素は
メバロン酸の合成に必要な
酵素であり、メバロン酸は
菌類の
細胞膜・
細胞骨格構成成分の重要な素材であることから、自己防衛手段としてこの酵素を阻害する物質を持つ
微生物が存在するのではないかと彼らは考えたのである
。1973年、6,000種に及ぶ微生物を検索した結果、遠藤らは
アオカビの一種 (
Penicillium citrinum) から最初のHMG-CoA還元酵素阻害薬であるメバスタチンを発見した
。彼らはメバスタチンの構造やHMG-CoA還元酵素を阻害するメカニズムについて解析すると共に、実際に血中のコレステロール値を低下させることができるかどうか、
動物実験による検討を行った。
ラット・
マウスなど
齧歯類では再現性のあるデータを得られなかったものの、
ニワトリや
イヌ、そしてより人間に近い
サルでは血中コレステロール値は20-50%程度低下し、メバスタチンの効果を実証することに成功した
。
ヒトの脂質異常症患者や健康なボランティアを対象にした小規模試験においてもメバスタチンの有効性が示され、
1979年に日本国内での
臨床試験が開始された。しかし、長期高濃度投与実験を行っていたイヌで
副作用が発生したことを受け、臨床試験は1年余りで中止となった
[。一方、メバスタチンの効果に関心を寄せていたアメリカの大手製薬企業・メルク社は、遠藤からサンプルやデータの提供を受けながら独自に研究開発を進めた結果、コウジカビの一種 (Aspergillus terreus) から新たなスタチンであるロバスタチンを分離することに成功した][。その後の臨床試験で、ロバスタチンは安全性が比較的高く、メバスタチンと同程度のコレステロール低下作用を持つことが示された]。1987年、アメリカ食品医薬品局(FDA)から医薬品としての認可を受け、ロバスタチンは製品化された最初のスタチンとなった。