しかしながら実際には親族が自ら次々と実験体に名乗り出ており、実母や妻に限った話ではない。あくまで本作は小説であり、映画版を含めて、実母と妻の役割と美談を強調した創作である。
ただし、青洲の妻・加恵は、中世以来の紀伊の名家である妹背家(その屋敷は
紀伊藩主が参勤交代の際の第一番の宿所に指定されている)の出であり、青洲としてはむしろ妻の実家に遠慮しないといけない立場であった。当時の社会制度上は妻が夫に反しては生きていけなかったため、加恵は協力を断れない状況に追い込まれたというのは、有り得ない話である。